「空港にて」村上龍
広島と東京を往復する飛行機の中で読んだ。村上龍さん自身が「僕にとって最高の短編小説」と絶賛するこの短編集は、発刊されてすでに数年になるが、今回やっと読んだ。本棚に置きっぱなしにしていたことを悔やんだ。素晴しい小説。
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」
本作は、「希望の国のエクソダス」に登場する中学生のこの台詞に対するオマージュだろうか。本作に描かれている絶望感の中での希望は、一見ちっぽけに見えるが、長い年月をかけて日本人がほとんど忘れてしまった生きていく上で最も大切な”生命力”のような気がした。
どれだけ不況や大災害に見舞われても、日本人の心の中には常に”いつか何とかなる”という、全く根拠のない漠然とした楽観が、必ず潜んでいるような気がしてならない。あるいは”誰かが何とかしてくれる”という、不毛な期待感が。しかしこの短編集に描かれた登場人物は違う。
他人と比較することによって得られる”優越感”や”誤った親切心”に満足を覚えるような社会の中で本来の希望は隠蔽され失われつつある。本作には、希望とは他人が関与するものではなく、将来が今より良いものになるという個人固有のものである、という痛切なメッセージを含んでいた。もっと早く、20代、いや、中学生のころに読んでおきたかった。
おすすめです。
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